BALLON JOURNAL Vol.47

BALLON JOURNAL Vol.47

BALLONを愛するクリエイターたちと、香りにまつわるエピソードや日々のライフシーンについて言葉を交わす「BALLONと私」。第4回は、BALLONのクリエイティブイメージを10年近く撮り続けてきたフォトグラファーの田中利幸さん。クリエイティブディレクターの鈴木いづみとの対談を通し、BALLONの世界観をつくる表現者としての源泉を探ってみた。

 

奥行きのある1枚の写真が生まれるまで

薄曇りから淡く光が差しこむように、陰影ある静かな世界を切り撮ったBALLONのビジュアル。あらかじめ綿密に打ち合わせるでもなく、鈴木がその場で組み上げるスタイリングに合わせて光を調整して構図に落とし込み、ジャズセッションのように即興で生まれていくことが多いのだという。

鈴木はビジュアルづくりについてこう語る。「田中さんはシーンを押さえるのが上手なんです。光の感じや空気感でBALLONの奥行きある世界を表現してくれる。いつも私の動きを見ながら何も言わずにライティングをセットしてくれていて、撮られた写真の色合いや温度を目にしてから『ああ、こんな風に仕上がるんだ』と驚かされる。その瞬間がすごく面白くて」

出会いは10年前。人を介して「白バックで白い石膏を撮れるか」と問われ、その時はそれがアロマオーナメントとも知らず「撮れますよ」と答えたのが始まりだったと田中さん。

「ちょうど独立して半年か1年ほど経ったころでした。アシスタント時代の経験から現場でライブに対応していく撮影には慣れていたんです。BALLONには一貫したイメージがあるので、基本的な方向性や世界観に合わせながら表現したい部分にフォーカスしていく感じ。鈴木さんからは最初に、あまり色彩を感じさせない『静物画のような雰囲気で撮ってほしい』と言われたのを覚えてます」(田中さん)





フォトグラファーとして仕事をすること。それは振り返って学生時代から、田中さんにとっては揺るがない決意だった。一度は流されるまま理数系の大学に入学したものの興味を抱けずに挫折。サークル活動を通して知った写真の魅力にはまり、写真学科のある大学に入り直した。もう一度ゼロからやり直すなら何がなんでもこの仕事で食べていく、そう心に決めた。

「カメラマン以外の職業は考えませんでした。少なくとも一度はプロとして生きていこうと。写真は何かを目にして、その瞬間を残せるのがいいなと感じたんです。絵は描けないので、写真なら自分の視点を形にして人と共有することができるんだと思って。影響を受けているのは映像が多いですね。映画でもTVでも、ストーリーというよりは光を意識しているんだと思います。自分の目では移動できる範囲しか見えないから、映像を通してもっと広い世界の光や構図を知らずと吸収しているのかもしれません」(田中さん)

 

 

秘めたクリエイションへの遊び心

学生時代はアンリ・カルティエ・ブレッソンの完璧な構図のモノクロームに、聖地巡礼の旅をするほど「熱狂的に惹かれた」と話す田中さん。現代のフォトグラファーを挙げるなら、ちょうど同じころ瀧本幹也の広告写真を目にして「こんな世界もあるんだ」と知った。

「映画では是枝裕和監督の『海街diary』や岩井俊二監督の『花とアリス』とか。羊文学の『光るとき』のPVも映像が綺麗で好きですね。多分、キラキラした海が好きなんですよ、それもちょっと色褪せた。そういう青春時代は経験していないくせにどこか懐かしさを感じて。ノスタルジックな心象風景への憧れですね」。田中さんは自分の思いつきに少し笑いながらそう語る。




鈴木もまた、田中さんのセレクションに自分好きな映画や映像作品、そしてBALLONの世界観を重ねることができたという。

「私は映像を色でとらえることが多いんですが、好きな写真家や作家さんを聞いて納得しました。目で見えているものを分析しないとライティングって組めないですよね。普段からそういう脳で世界を見てるんだなと思って。田中さんは最初出会った時から、まったく違和感がなかったんです。私自身はまぶしい常夏の海も好きだからおそらく性格は少し違うんですけど(笑)。写真としては、冬のヨーロッパやモノクロの少し退廃的なムードを素敵だなと思うんですね。10年撮り続けてもらっているのも、その感覚が近いからかもしれません。クリエイター同士って長く続ければ続けるほどズレがあるときもあるからそれって珍しいことですよね」(鈴木)

もうひとつ、2人の共通言語にあるのが“遊び心”だ。BALLONのビジュアル撮影でも、2匹の猫のオーナメントがキスしていたりなど「頼んでいないカットがたまにそっと紛れていたりするんです。そんな風にちょっとだけふざけたりすることがあって、そのさじ加減がちょうどいい」と鈴木。

「絶対にふざけられない現場が普通に多いし、速攻性や即時性が求められる時代だから腰が重いのはしょうがない。でも、ちょっとふざけてみたことがすぐに結果に結びつかないとしても、もしかしたら半年後、1年後に急にバズる可能性だってありますよね。だから、そんな懐の深さやクリエイティブへの理解があることが素敵だなと思います」と、田中さんもBALLONの魅力を語る。

真面目なものは「それっぽく作ればいいから実は簡単」と鈴木。それに「データや数字だけを追いかけるようになったらクリエイティビティは終わりだと思う」と。ものづくりへの深い想いを共有する2人だからこそ、ぶれないBALLONの世界がそのビジュアルに刻まれるのだろう。

 

 

[[profile]]

田中利幸(たなか・としゆき)フォトグラファー。東京都出身。日本大学芸術学部写真学科卒業。フリーランスで主にファッション・ポートレートや物撮影を手がける。愛用はFUJIFILMの中判カメラ。「レスポンスに難があるけど空気感がやっぱりあって。人物撮りには適さないのでBALLON専用機です(笑)」

ポートフォリオ:https://portfolio.toshiyuki-t.com/  
ブログ: https://toshiyuki-t.com/

 

Text:Aiko Ishii
Photo:Shiori Shimegi (Schemes Ltd.)

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