父親に贈りたい金塊争奪戦『ゴールデンカムイ』
ヤングジャンプの人気漫画『ゴールデンカムイ』が完結した。同誌の『キングダム』も面白いけど、同じ集英社の少年ジャンプの『呪術廻戦』も面白いけど、私はゴールデンカムイの方が人間的に共感する。
概要はざっくり言うと、日露戦争帰りの兵卒・杉元佐一(通称不死身の杉元。マジ死なない)がアイヌ民族の少女・アシリパと出会い、アイヌの残した金塊を探すというもの。金塊のありかは網走監獄の脱獄囚の体に彫られた刺青暗号に示されており、囚人を見つけるデッドヒートが日本陸軍第7師団、新撰組の土方歳三・永倉新八らと繰り広げられるのだ。
途中、囚人に暗号を彫ったのはアシリパの父親ウィルク(アイヌ語でアチャ)であることが明らかになる。父親はロシア帝国の革命家で、ニコライ2世暗殺により北海道に逃げ延びアイヌに同化した。アシリパにアイヌの未来、北海道の未来を託すために金塊を隠したのだ。アチャを探し、アチャの真意を知るアシリパ。アシリパを授かる前は合理主義者で冷酷とも言える人間だったウィルクが、娘を得たことで少し軟化する。それゆえに悲劇が起こるのは人間と父親としての業を感じさせる。
また、偉大な陸軍将校を父親に持ち、己の能力や存在を自問自答する第7師団の兵卒2人の描写も鮮やかだ。1人は海軍少将を父に持つ鯉登音之進。もう一人は陸軍中将の妾腹として生まれた尾形百之助だ。前者は優秀な兄に、後者は本妻の弟にコンプレックスを持っている。連綿と描かれて来た父と息子という関係が様々に描写され、読む人によりキャラクターに感情移入させられることだろう。
北海道が舞台というのも良い。札幌や小樽、旭川、樺太など北方を巡る旅は北海道や極東への憧憬を募らせ、現地に行きたくなる。最後の到達地はあの名所だ。実は生きていたという設定の土方歳三や、石川啄木など実在の人物が出てくるのもニクイ。そして何よりも各キャラ全員変態というのが最高!これほどみな邪悪なキャラクターも珍しいだろう(笑)。かつ、アイヌ文化を入念な取材に基づき描いており、単なるエンターテインメントではない漫画に仕上がっている。
シリアスあり、グロテスクあり、グルメあり、ギャグありの人を食ったような本作。作品を表すキャッチコピー「和風闇鍋ウエスタン」からゴールデンカムイの雰囲気を実感できると思う。ぜひ父の日にはゴールデンカムイを贈って人の闇を楽しもう。司馬遼太郎の『坂の上の雲』や『燃えよ剣』を読んだ人ならかなり楽しめる。そんなお父さんは多いはず。
6月26日まで東京ドームシティにて展覧会を実施中だ。父子で訪れてこの作品の闇鍋を楽しんでもらいたい。
by writer Mitsuhiro Ebihara