BALLON JOURNAL Vol.41

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タイユフェールと女と花

突然だが、女性作曲家と言われて誰か思い浮かぶだろうか?

殆どの人が思いつかないだろう。それだけクラシック音楽史において女性作曲家は珍しい。女性演奏家は作曲家よりは多いが、圧倒的に男性演奏家の方が多い。歴史的に女性の社会的地位が低いのは芸術を通してもよくわかることだ。

さて20世紀初頭のパリに、フランス6人組と称される作曲家グループがいた。メンバーはルイ・デュレ、アルテュール・オネゲル、ダリウス・ミヨー、ジェルメーヌ・タイユフェール、フランシス・プーランク、ジョルジュ・オーリック。先行するロシア5人組になぞらえてつけられた呼称だ。

6人組の作風は新古典主義で、最後まで調性を追究した。6人組と命名し彼らを率いたのはベルエポックのパリの芸術文化を牽引した詩人ジャン・コクトー。すなわちコクトーの思想である”音楽は楽しいもの”に従った聴きやすい曲がメインだった。6人の中には女性が一人いる。紅一点のタイユフェールは、コクトーから「耳のマリー・ローランサン」と評された作曲家だ。ラヴェル、サティなどに師事した彼女の音楽は確かに明るくお洒落。ピアノ曲集『フランスの花々』を聴くとどことなく画家ローランサンのパステルカラーが目に浮かぶ。

この曲集は、『プロヴァンスのジャスミン』『ギュイエンヌのヒナゲシ』『アンジュの薔薇』『ラングドックのヒマワリ』『ルションのカモミール』『プロヴァンス高地のラベンダー』『ベアルンの朝顔』『ピカルディのヤグルマギク』のフランス地名と花をかけ合わせた8曲からなる。

どれも都会のパリではなく、フランスの地方が舞台だ。甘く、爽やか、そして軽やかにふわっと香気立つ。フローラル系のオーデコロンのように明快だ。書法もシンプルで弾きやすい。1分前後の曲なので全部聴いても10分ほど。白いヴェイスに活けたくなるような曲集で、春が始まるこの季節にBGMとして流しておきたくなる。



タイユフェールは1892生まれで、2022年の今年生誕130周年。メジャーとは言いがたいが、どの曲も軽快で聴きやすい。難点なのは録音が少ないこと。また日本では輸入楽譜でしか手に取ることができないのも、国内でいまいち普及しない理由だろう。1983年91歳で逝去。奇しくもローランサン生誕100年の年だった。

ちなみに6人の音楽をよく取り上げ、世に広めたのはマルセル・メイエ。6人組の女神と称された女性ピアニストで、初演も多数。メイエのラヴェル『夜のガスパール』のLPを京都のカフェ・モンタージュで聴いたが、スカルボの凄演だった。彼女の『フランスの花々』の録音が残っていたらこれ以上ないだろうに。


by writer Mitsuhiro Ebihara 

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