BALLONを愛するクリエイターたちとクリエイティブディレクター鈴木いづみが、香りにまつわるエピソードと日々のライフシーンについて言葉を交わす「BALLONと私」。第1回は、BALLON JOURNALにて音楽や文学、映画をテーマにしたエッセイを連載する編集者の海老原光宏さん。心の琴線に触れる香りやアートの世界について、ともにフレグランスを手がけるクリエイターとして共鳴し合う感性など、前後編にわたりその美意識の源泉を語り合った。
香りづくりが教えてくれるもの〈後編〉
〈前編〉から続く
海老原氏はこの秋、クラシック音楽を愛する人たちに贈るフレグランスブランド、La Nuit(ラニュイ)を発表した。デビュー作は、モーリス・ラヴェルのピアノ曲『夜のガスパール』の3曲を香りにしたオードトワレのセットで、楽譜をイメージした初回限定のボックスに収められている。
その香りへの向き合い方に「BALLONに通じるものを感じました」と鈴木。
「フランスでは香りがゼロから始まるクリエーションととらえられています。例えば写真集を見て、そのインスピレーションから香りを生み出そうとする。アーティストである調香師がいて、香り自体がアートだという考えなんですよね。でも、日本は既存の人気のある香りをいかに変化させるかを考えた、商業が先に立つケースが多い。私たちは“表現”となる香りを生み出したかったので、求めるイメージの奥深さに苦戦したりしながら、それぞれの物語の香水を作っていきました。香りをプロデュースする側として、そういうアプローチをする人は本当に珍しいから、海老原さんのLa Nuitは面白いと思ったんです」(鈴木)
海老原氏が考える香りとは「感情的なものであり、記憶に刻まれる」もの。ふとした瞬間、その香りをきっかけに昔のことやある人のことを思い出す。そういう贅沢さがあるからこそ、「プロダクトとして香りは100%完璧であると同時に、ブランドの世界観を作るムードやデザインなどの付加価値が欠かせません。そのすべてまとめ上げる作業に魅力を感じます」と話す。
そもそも海老原氏が香り作りに興味を持ったのは、スウェーデンの香水ブランドBYREDOの創始者、ベン・ゴーラムへのインタビューがきっかけだったそうだ。「イネス&ヴィノードの写真をイメージした香りがあって、なるほどこういう作り方があるんだと知ったんです。自分が好きな音楽をベースに何か作りたいと考えたときに、ゴーラムの話を思い出しました。香水って体臭と混じり合ってパーソナルなものになりますよね。それが体験としても面白いと思いました」
鈴木もまた、日本の消臭文化のように“臭いものに蓋をする”のではなく「パーソナルな表現として香りを使う人が増えてほしい」と願っている。
「フランスでは体臭も魅力だととらえられていて、“消臭”ではなく自分自身の匂いをさらに魅力的にするものとしてフレグランスがあるんです。私たちも結局、好きな人の匂いって体臭を記憶していたりしませんか? フレグランスカルチャーの浸透から、日本の香りの楽しみ方もそうして変化していくといいなと思います」(鈴木)
BALLON JOURNALを越えたプロジェクトも実現するかもしれない。2人の間では初回のミーティング時から、誕生前のLa NuitとBALLONのコラボレーションについて話が盛り上がったそうだ。「音楽をテーマにしたアロマオーナメントを作ってみるのもいいですよね」と海老原氏が投げかけると、オーケストラや歌曲、バイオリンなど、La Nuitのテーマであるピアノ曲以外をフィーチャーして「香りを生み出すところから一緒に作ってみるのも面白そうですね」と鈴木。
アイデアは尽きることがなさそうだが、第二章としていったいどんな新しい物語が生まれるのか、今からその旅立ちが楽しみだ。
[[プロフィール]]
海老原光宏(えびはら・みつひろ)編集者。雑誌、ウェブ媒体を経てフリーに。以降デジタルメディアやSNSの運営・コンサルティング、ファッション・アート系の編集執筆に従事。趣味はピアノ。
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@NuitMusique
Text:Aiko Ishii
Photo:Shiori Shimegi