BALLON JOURNAL VOL.2

BALLON JOURNAL VOL.2

Le Voyage en BALLON.香りとともに旅をする。BALLONの旅の追憶。

Story 01. 東京
〜旅のはじまりの物語。〜

五感のなかで唯一脳にダイレクトに伝わるといわれる嗅覚。鼻腔から入った芳香成分は電気信号に変わり、感情や記憶、睡眠をつかさどる脳の中枢へ到達。その速度は、わずか0.2秒以下と言われている。

ヨーロッパの教会に漂う重厚な香り、夏休みに訪れた高原の緑の匂い、……香りは一瞬にして記憶と結びつき、自在に時間を巻き戻して、かつて訪れたあの場所へと私たちを飛び立たせる。そう、それはまるで旅するように。

0.2秒で時空も空間も飛び越える都市移動の旅へ。

 

旅と図書館。妄想の羽根はどこまでも。

実は旅先で少しでも時間に余裕があるときにはその街の図書館に立ち寄ることにしている。ニューヨーク市立図書館なんかはとびきりお気に入りの図書館の1つ。本当は1日中いたいのだけれど、残念ながらいつもそんな時間はさすがに難しく、ちょっと立ち寄るだけ。世界中の図書館は私をいつも少しそっけなく、そしてやさしく迎え入れてくれる。そのほんの一時の滞在でさえ、旅先の少し浮ついたような気分が、日常の感じにクールダウンできるような気がする。

 

図書館の空間への一歩は、旅先での刹那にも似て。

 

図書館の空間への一歩は、旅先での刹那にも似て。

おびただしい蔵書に囲まれた静寂の中で紙やインクなどの香りを吸い込むと、慌ただしい日常から切り離され、異次元に迷い込んだような感覚に包まれる。一つ一つの異なる書物が集合体となったこの空間へ立ち入った瞬間、いつも感じる独特な浮遊感。この非日常感は異国の地に降り立った時の空港と少し似ている気がする。

長いフライトが終わり、飛行機から降り立つ時、その土地の空気の臭いと空気が全身を包んで迎えてくれる。乾いた香りと独特の甘い香りの奥にうっすら埃とオリエンタルスパイシーの香りがするPARIS。土と湿気と独特の苦い香りがする上海。そういえばニューヨークはカビのにおいが奥にちょっぴり香ってくる気がする。土地の臭いと人のにおい、そしてそれを取り巻く生活のにおいが混じり合ったその土地のにおいを一番感じる瞬間だと思う。

 

東京の中心、緑の公園の中の図書館で運命の1冊を見つける冒険。

東京にある日比谷図書文化館、通称「日比谷図書館」。東京の中央に位置する、都会の喧騒の中に突如現れる緑深い公園の中の図書館。緑豊かな場所でひとり書物と向き合い、各々がひとり静かにさまざまに思い思いの時間を過ごす人々が集う。

日比谷図書文化館は、江戸時代から昭和戦前期の約2万冊もの古書や雑誌のバックナンバーがアーカイブされており、別の時代を生きた人たちが残した書物に直接触れることができる。それらを手に取ると、文字や絵、写真から、さまざまな時代を生きた世界中の人々の生活、記憶、感情の波が押し寄せてくる。「ここには無数の冒険が詰まっている」と胸が高鳴る瞬間。一つ一つの書物は全て冒険に満ちている。

そういえば私が新しく香りを作る時、香りのイメージを物語にして調香師に託す、という作り方をすることが多い。フレグランスの本場、フランスでもそういう作り方をすると聞いてから、特にイメージする世界観や物語を大切にするようになった。それは時に物語だったり、音楽だったり、とある個人の生き方だったりもすることもあるけれど。

 

広い公園に生い茂る木々や花々の安らぎ、書物のインク、木や石などの建材、佇む人々が香る図書館

 

広い公園に生い茂る木々や花々の安らぎ、
書物のインク、木や石などの建材、佇む人々が香る図書館

紀元前からの歴史を持つといわれている図書館という施設。しんと静まり返った図書館に足を踏み入れたときの浮遊感を人は2000年以上も感じてきたのだろうか。あの独特の感じにインスピレーションを得て作った香り、その名も「BIBLIOTHÉQUE」。フランス語でそのままずばり「図書館」の意味の重厚なフレグランスオイルだ。

イメージしたのは公園に隣接する古い図書館。
そう、日比谷図書文化館とぴたりと重なる。

図書館周辺に生い茂る木々を思わせるシダーウッドを中心に、インクの香りに近いも言われる、土の香りの感じもするパチュリやオークモスにグリーン系の香りをブレンド。図書館に佇む人々からほんのり香るレザーやタバコのような独特なくせのある香りと、ムスクやアンバーのオリエンタルで落ち着いた雰囲気もかすかに漂うユニセックスな香りになっている。

古代エジプトでは「神聖な木」とされていたシダーウッドや古代から寺院の香りとして世界中で使わせてきたサンダルウッド・・・神聖な図書館を表現する香料としては最適だと感じた。図書館の膨大な書架の前で1冊を決める瞬間、ほんの一瞬だけ「どうかこれが自分に合う一冊との出会いになりますように」と軽く祈りを込める。図書館はそんな神聖な場でもある。

BIBLIOTHÉQUEの香りが持つ、心の奥底まで静かになるような静謐さと穏やかさ。日々のあれこれに追われ波立つ気持ちにそっと鎮め、そしてまた新たな冒険への勇気を奮い立たせる、心のなかの図書館のような香りになったら、と願いを込めて。

さぁ、ここから旅に出よう。
香りに導かれるがままに、気球に乗り、新しい旅へ。

Creative director Izumi Suzuki

 

今回ご紹介した香り:BIBLIOTHÉQUE
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