STORY04. 妄想TOURのススメ
〜まずは地図を広げて。世界は広い。〜
とうとう、最後の海外出張から1年経ってしまった。
世界各地のコロナウイルスの猛威はとどまるところを知らず、2021年になってもまだ海外渡航の目処はつかない。とうとう2017年から毎年の恒例行事だった年明けのPARISの展示会もキャンセルとなり、なんと1年間まるまる海外渡航を阻まれてしまったことになった。
一昨年の私には暢気にも「来年はここに行こう。」と思っていた場所が沢山あった。
スイス、ドイツ、LAにマイアミにロンドン、ニューヨーク、コペンハーゲン。そうだ、ハワイも久しぶりに行きたいと思っていた。
当然どこにも行けていない。
そして今日も明日も来月も東京から出て行けそうもない。
こんな事態がやってくるなんて、きっと世界の誰も予想していなかっただろう。
当然、私も同様だ。
そんな折、例年一年の半分を海外出張に出かけてきた友人に素敵なギフトをもらった。
まるで海賊船の船長室にあるような、A2判というかなり大きな海外版世界地図である。
ゆっくりとその大きなページを繰り、オシャレな外国の大判の地図を眺めていれば、行ったことのある街や国も、見知らぬ街も、地球の外から俯瞰で眺めるような気分で眺めながら空想でもしばし旅に出た気分になるかと思いきや・・・。
ならない。
全然ならない。
当然だ。旅の醍醐味は想像を遙かに超えたところにあるのだから。
初めて降り立った空港。初めてのサインを頼りに歩いて並ぶ入国審査ゲートで嗅ぐ初めての街の香りや空気感、迷いながら歩く見知らぬ街の顔、それは実際に体験しなくては味わえない大切なものだ。
でも、こんなときだからこそと、自分の意思で旅に出ることが出来なかった子供時代に戻った気分で「ここの街はどんな気分で歩くんだろう。」「どんな香りがするのだろう。」と妄想の羽根を広げてみようと思った。未来の旅に向けての妄想計画ツアーの始まりだ。旅に出た疑似体験は無理でも、次の旅への気持ちを盛り上げることなら、得意技だ。
子供の頃から地図帳や世界史の資料集が大好きだった。学校の授業中に地図を眺めすぎて先生の話が全く耳に入っておらず困ったこともしばしばあった。実際に目的地がある時の地図は全くと言ってもいいくらいに読めないくせに、空想の中では道をたどって、川を遡って、山を越えて街をまたぎ、どこまでも旅をすることができた。時には絵本や映画の世界の気分のファンタジーツアーのような自由な妄想ツアーを繰り広げていたものだ。
どこに行こう、外国だったらどこに住もう?
どこに行こう、どこに行こう?
そんな気持ちで。
地球の裏のブラジルなら毎日少しずつ頑張れば直線距離で行けるかも、と連日自宅の庭に穴を掘り続けてこっぴどく叱られたことがある。大人からは自宅の庭に掘られ続ける迷惑千万な単なる大きな落とし穴にしか見えなかっただろうが、子供としては百科事典で知った地球の真ん中にあるという「マントル」をどう避けて穴を掘り進めようかなどと、ロマンと冒険に満ちた悩みを夜な夜な考える興奮の日々だった。
大人になると、そんなファンタジーの旅に思いを馳せる必要もなく、行きたい街があれば、チケットを買って出かけることが出来る。そういえばこの何年も次から次へとどこかへ出かけていくような日々が続いていたこともあり、ゆっくりと「次はどこに行こう?」だなんてロマンのある時間を過ごす余裕がなかった気がする。
自分の大切な場所の香りをイメージして作ったフレグランス「GRENIER(グルニエ)」は、そんな未来に思いを馳せる「アトリエ」のイメージとして作った香り。GRENIERというのはフランス語で「屋根裏部屋」という意味で、大切なものが沢山置いてある自分だけの秘密基地というイメージで作った。少し土っぽい香りと墨汁のような甘い香りが混じり合った、日本らしく深く懐かしいフレグランスだ。
毎日毎日知らされる不安な数字やニュース。余りに振り回されて大切な明るい未来をイメージすることを忘れていないだろうか。ゆっくりと深煎りのコーヒーを淹れて、自分の大切なものに囲まれたアトリエでGRENIIERの香りをくゆらせ、ゆったりと見知らぬ街の地図を広げて未来の旅へファンタジックな思いを馳せる時間。これはこれで今でしか味わえない素敵な時間なのかもしれないな、としばし自分を諫めつつ。
さぁ、世界地図を広げよう。
自分のお気に入りの部屋で世界の写真集を眺めよう。
この世界を駆け巡り災苦が一段落ついた先にある旅へ思いを馳せよう。
それがきっと明るい未来を迎える準備運動になると信じている。
どこに行こう、どこに行こう?
今また再び、そんな気持ちで。
早くこんな日々が終わりますように!
神様、早く旅に出させてください!と祈りを込めて。
Creative Director
IZUMI SUZUKI
今回ご紹介した香り
Grenier