気がついたら、このBALLON JOURNALも随分と空白ができてしまっていた。
随分と空白があいてしまったが、ここはゆるやかに、そして気分も新たに香りの旅を時々書き連ねていけたらと思う次第。
今年の5月も気がついたら終わってしまった。
東京の住宅街でも咲き誇るローズの香りには「ああ、今年もそろそろ春が終わるのだな」と毎年気付かされる。
バラは1年のうち何度か季節があるのですが、5月に咲くバラが最も香りが強く、美しいと言われているそう。
「Rose de Mai」。ローズ・ド・メイと読む。意味はそのまま5月のバラ。
バラは花の美しさだけでなく、その香りも素晴らしく、芳醇で華やかで甘く官能的。
「花の女王」という異名をとるこの究極の花とも言えるバラの花のルーツは紀元前にまで遡り、歴史上でも伝説やロマンに彩られた植物であり、多くの人々を魅了してきた。
その香りは調香師たちの間でも香りの女王と言われている。
なおかつ、300輪の花からたった1mlしか精油が抽出できないというその希少性。
香りの都グラースで採取されるローズ・ド・メイのほとんどはフランスの有名メゾンが所有しているらしい。美しいものを畑から作るとは、なんて羨ましいものづくりのあり方なのだろう。
確かにバラの香りは、脳の奥がしびれるようなうっとりするような香り。
甘いけれど、イランイランやジャスミンのような甘さとも違ってフレッシュで気品もあって、優雅さも感じます。美しい宮殿の中を凛としてゆったりと歩く美しく賢い、女王そのものの姿のイメージが脳裏に浮かぶ。
化学の技術が発達して、かなりの香りの組成を分析し再現することができるようになった現代ではあるのだが、天然の香りの組成は何百もの分子から成り立つと言われるほど複雑で、光や水などの畑の状況にもよって成分にも変化があるので、完全に再現することはできません。私は精油は地球のアートだと思っている。
コートダジュール特有の山々の上にある小さな市街地にあるグラース。
BALLONを始めるちょっとだけ前、南仏を旅したことがある。思い出すのは海と山々と美しい景色。コートダジュールの海のブルーと山々のグリーンに差し色で土色の建物の集落が夏の日差しにキラキラ輝いていた眩しい景色が今も強く記憶に残っている。
あの光の中で5月に咲く、芳しいローズの香りに思いを馳せて。
今年の幻のローズの香りはどんな香りだったのだろう。
いつか、5月のバラという女王様にお会いしにコート・ダジュールへ行けたらな。
東京の街角より。
いつかの5月へ。
BALLON Creative Director
IZUMI SUZUKI