BALLON JOURNAL Vol.39

ショパンの“猫の”ワルツをチーターにした日本在住天才ロシア人

 

よく問われる犬派か猫派かという命題において、私はどちらかというと猫派だ。キャットウーマンが生み出されたように、猫の方が曲線的で女性的でフォルムが美しい。特に黒猫の佇まいは神秘的なほど。真っ黒な中、金に光る目は想像力を掻き立てられる。エドガー・アラン・ポーのホラー小説『黒猫』なんて堪らない。対して犬は、表情もフォルムも鳴き声もなんか硬質で男性的な感じがするからあまりそそられない。

さてショパンの一般的な有名曲に『子犬のワルツ』があるが、実は『猫のワルツ』もあるのを知っている人は少ないだろう。”猫の”はショパンが付けたわけではなく、途中の半音階の装飾音の旋律が、猫が鍵盤を飛び跳ねているかのようということから猫が俗称となった。正式にはワルツ4番Op34-3で、三つの『華麗なる円舞曲』のうちの1曲である。

子犬のワルツは、自分の尻尾を自分のものと知らずにくるくると追いかけ回る可愛い情景が浮かぶが(因みにこちらはジョルジュ・サンドが飼っていた犬を描写したらしい)、猫のワルツは少し難易度が高く華麗。コンサートでも映える。特に1985年のショパンコンクール覇者で日本で大人気となったスタニスラフ・ブーニンの超高速演奏が画期的かつカッコいい。猫のワルツというよりチーターのワルツと化している(笑)。こんなスピードでは踊れないだろう(笑)。

ブーニンの演奏。0:56あたりからが件の猫部分。

Stanislav Bunin- Chopin Waltz Op.34 no.3 스타니슬라프 부닌 쇼팽 왈츠


ブーニンは祖父がゲンリヒ・ネイガウス、父がスラニスラフ・ネイガウスというロシアピアニズムを代表するピアニストの血を引いたサラブレッドで、祖父・父譲りの激情ほとばしる演奏はキレキレで熱い。演奏姿が面白いので、他の映像もおススメだ。

ブーニンはわずか19歳でショパン優勝後、日本で大変なブームとなりクラシックファン開拓に寄与。まるで反田恭平、角野隼斗に沸く今の日本みたいなのだ!それ以降彼は日本を愛し、日本人と結婚。しかも世田谷在住(豪邸)。日本の音大でも教えていた。よく考えるととても貴重なこと!近年、怪我をしたことで本格的な演奏活動は行っていないようだが、オントモのインタビューを見ると元気そうである。つくづくまた表舞台で活躍してもらいたい音楽家だ。

そういえば2022年の2月22日は最強の猫の日!内田百閒、夏目漱石、谷崎潤一郎、三島由紀夫などなど文豪に猫好きが多いが、音楽家は少ない印象。猫エピソードは寡聞にして知らない。何でだろう?音化しにくいのだろうか。分かりやすいと思うのだが。にゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃー!

by writer Mitsuhiro Ebihara