12音技法で現代音楽の幕を開けたシェーンベルク
今年2022年ももうすぐ閉幕。直近ではサッカーワールドカップで明るい話題が出たが、1年を振り返ると、コロナ禍が終息しつつあるも、ウクライナの戦争が始まり、このダブルパンチによって急激な日本の国力衰退が浮き彫りになった年だったのではなかろうか。来年以降どんな年になるだろうか。
クラシック音楽史では巨匠の周年が続く。2023年はセルゲイ・ラフマニノフ(1873-1943)の生誕150周年。再来年2024年はアルノルト・シェーンベルク(1874-1951)の生誕150周年。特に後者のシェーンベルクは音楽史で重要な作曲家だ。人気は圧倒的にラフマニノフだが(笑)。
シェーンベルクはオーストリア生まれ、ユダヤ人のためナチスから逃れるためアメリカに亡命し、そこで生を終える。彼が生きた19世紀末~20世紀初頭の芸術音楽は、調性を超え、新たな形式の音楽は成立するのか?という過渡期だった。
ラフマニノフは調性の晩年である後期ロマン派の作風を変えず最期までロマンティックな曲を書いたが、シェーンベルクは真っ向からこの調性に挑み、無調で作曲、そして遂に体系的な作曲技法「12音技法」を生み出した。シェーンベルクと弟子を含めた作曲家たちは新ウィーン楽派と呼ばれ、現代音楽誕生の一翼を担った。ちなみに中古レコードCDストアのディスクユニオンでは新ウィーン楽派は現代音楽のコーナーにあることがあるので探す際は気を付けよう。
この12音技法は、すごいざっくり簡単に言うと、1オクターブにある12個の音を一つずつ用いて並べ、それの反行、逆行形という音列を操作して作曲するという方法だ。なので、この技法で描かれた曲は統一感を持ち、どんな感じなのか分かる。ではちょっと聴いてみよう。
内田光子演奏「ピアノ協奏曲Op42」
聴いただろうか?はっきりいって全然良くないだろう(笑)。私は無調は好きだが、12音技法は嫌いだ(笑)。なんか理論が先行し過ぎていて機械的に感じてしまう。しかしこの技法はバロックからの形式フーガにとても近い。フーガも一つの主題を色々な形に変化させ発展させる様式だからだ。ゆえに天才バッハ弾きのグレン・グールドは新ウィーン楽派を演奏している。
グレン・グールド演奏「ピアノ組曲Op25」
こんな音楽あるんだ、という感想の人が多いのではないだろうか。シェーンベルクはこの技法を発明した際、「今後100年間のドイツ音楽の優位が保証できる」と自信を覗かせ、その後弟子のアントン・ウェーベルンがトータル・セリエリスムに発展させていく。まさに現代音楽の幕を開けた。が、21世紀の現代ではさほど用いられていないようだ。
面白いのは、ほぼ時を同じくして、美術界において画家ワシリー・カンディンスキーによる抽象派が産声を挙げていることだ。この二人は繋がり、カンディンスキーの作品にシェーンベルクの演奏会をモチーフにした作品がある。また、青騎士という展示、書物の出版も行っている。シンクロニシティのように“現代”という芸術を二人が幕開けしたのだ。
来る2023年卯年はどんな年になるか。ウサギのように飛躍すると言われる良い年になることを願う。辰年の2024年は龍神様のご利益に溢れ、日本の復興が始まることを祈念したい。
それではちょっと早いけど、皆様メリークリスマス&良いお年を~~~。
by writer Mitsuhiro Ebihara