BALLON JOURNAL Vol.55

BALLON JOURNAL Vol.55



2023年、今年の夏は前触れもなく酷暑で、梅雨が明けないうちから猛暑だった。梅雨が明けきらない東京の7月は、湿度こそ高くとも気温はまだ33度くらいまでが例年だったが、今年は35度、37度と体温くらいの日々がザラだった。


とにかく暑い文月だが、この月見ごろになる植物がホオズキだ。毎年7月になると各地で「ほおずき市」が開かれる。東京だと浅草寺が7月9、10日に催す市が有名だろう。7月10日にお詣りすると、4万6000日分の功徳があると言われることから、毎年多くの人でにぎわい、境内に立つ屋台はホオズキの赤に染まる。





ホオズキは「酸漿」と書かれ、地下茎と根は酸漿根という生薬になる。咳止めや解熱剤として用いられるが、堕胎作用があるので妊娠中の女性は絶対に服用してはならない。また、実を包む赤いガクが提灯のようであり、お盆に先祖を導くために飾られることから「鬼灯」と字を当てられる。このガクが朽ちて葉脈だけになったとき、レースのシェードの中に赤い実がランプのように佇むさまはとても風流で幻想的だ。

赤は、鮮烈でありとても印象的な色だ。血の色とリンクするため記憶に残りやすいのだろうか。この赤を反則的なまでに美しく演出に用いた映画がある。鈴木清順の『陽炎座』だ。『ツィゴイネルワイゼン』『夢二』と合わせ清順の「ロマン三部作」と呼ばれるこの幻想譚は、泉鏡花の原作を松田優作、大楠道代の主演で映画化したもの。もちろん清順らしく、ストーリーは全く分からない。鏡花の小説を切り張りした、原作とはかけ離れたもはやオリジナル作品となっている。2時間20分の美術として観るべき映像と言った方がいい。この作中でホオズキが効果的に使用される。中でも、水の中に浮かぶ大楠と湧き上がるホオズキの実のシーンはこの世ならぬ映像だ。このシーンを観るだけでも価値がある。



ちなみに、ホオズキはほとんどが非食用で毒性があるので口にするのは避けて頂きたい。あの鮮やかな朱、提灯のようなフォルムは鑑賞用として楽しんでほしい。しかし、ごく少数だが香料として使用したパフュームがある。その香りは寡聞にして知らないが、8月もお盆で目にする機会が多いホオズキ。どことなく彼岸の香りがするかもしれない。



by writer Mitsuhiro Ebihara

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