日本の夏に相応しい空気が重いフランス映画5選
日本の蒸し暑い、茹だるような真夏がやってくる。べたつく肌、じんわり吹き出す汗、蕩けるような高温。日本の1年で最も不快なこの季節にあえて観たいじっとりフランス映画(共同製作含む)を5つご紹介。湿度が低い気候でラテン民族なのに、なぜか日本と同じくうじうじしているフランス文化。ぜひクーラーを利かせて炭酸を飲みながら観てもらいたい。
ギャスパー・ノエ監督『LOVE』
公開当時の2015年、3D映画が流行っていたが、鬼才ノエは3Dで性愛を描いた。2年間のカップルの情交を主人公の男性が回顧する。2人の2年間は愛欲に塗れていた。セックス、ドラッグ、スワッピング、喜びに怒りに悲しみ、ありとあらゆる感情と営みにセックスがあった。擦れた赤のような映像美の中、2人を通して愛を考えさせられる。独身、既婚、父・母、自身の境遇で抱く感情は変わるだろう。と、論考してみたが、本編の半分はセックスシーンなのでほぼポルノだ!
ラース・フォン・トリアー監督『ニンフォマニアック』(仏、丁、独、白、英合作)
カップルの性愛を観た後は続けて、セックス狂いのシャルロット・ゲンズブールはいかがだろうか。ニンフォマニアックの意味は色情狂。タイトル通り、シャルロット演ずる主人公が性遍歴を語っていく。トリアーは『ダンサー・イン・ザ・ダーク』の監督といえば分かる人も多いだろう。とにかく偏執的で救いがない。そしてサディスティック。空気が重い夏の重力を更に上げてくれる。前後編4時間ととにかく長いがラストの落ちがかなり面白いので頑張って観よう。そして意外と卑猥ではないのでそこらへんをあまり期待してはいけない。
フランソワ・トリュフォー『アデルの恋の物語』
セックス依存の次は、ストーカー的恋愛狂の話だ。文豪ヴィクトル・ユーゴーの娘アデル・ユーゴ―の実話が元のこの映画。主人公アデルがしつっっっこく狂気的に想い人を追いかけまわすという湿度高すぎなストーリーなのだ!手紙を書きまくり、海を越え、偽装結婚し、催眠術で洗脳し……振られても止めない。こんな鬼気迫るイザベル・アジャーニが蠱惑的で美しい。彼女の出世作となり、以降このような変態美女役が多くなる。多湿な日本にぴったりなしつこすぎる美女の恋愛を観てみよう。因みに昨年逝去した大ヴァイオリニスト、イヴリー・ギトリスが出演しているので音楽好きはチェック。
ルキノ・ヴィスコンティ『ベニスに死す』(仏、伊、米合作)
名匠トリュフォーに続くのは、名匠ヴィスコンティの少年を追いかけるジジイを描く『ベニスに死す』だ。名画中の名画なので、観たことがある人も多いかもしれない。若さを象徴するかのような美少年タジオに一目惚れした老作曲家アッシェンバッハ。夏の陽光の下、疫病が蔓延するベニスを彷徨し、老作曲家は息絶える。ヴェールを被り白粉を塗ったアッシェンバッハの醜さといったらこの上ない。アッシェンバッハのモデルは作曲家のマーラーと言われているが、劇伴に彼の交響曲5番第4楽章アダージェットが使われ、マーラー人気が復活。厭世的なマーラーの音楽は美と死がテーマのこの映画にぴったりだろう。因みに耽美的なデザイナー、リー・アレキサンダー・マックイーンは自身の2007年春夏メンズコレクションで『ベニスに死す』をテーマに発表した。ヴェールを被ったルックが実際に登場したのだが、全体的には夏らしい明るい色使いのリアルクローズで意外に大人しかった。さて、老いと若さを対比するこの映画はデカダンスの極致。美とは何か?考えさせてくれる。
ヤン・クーネン『ドーベルマン』
ラストはカラッとラテンなノリで。ヴァンサン・カッセルが主人公ヤンを演じるヴァイオレンス・アクションだ!フランス映画はじとじとしてるか、えろいか、おしゃれぶってるか、知的ぶってるか、つまりスノッブな映画ばかりで、何が面白いの?ヌーヴェルバーグって何?と思っている人にぜひ観てもらいたい。『ドーベルマン』はクエンティン・タランティーノをほうふつとさせる、テンションとヴァイオレンスと空虚に満ちている!暑気を打ち払って楽しませてくれること間違いなし。内容は銀行強盗のヤン一味と手段を選ばない極悪非道の警官クリスティーニとの激闘を描いた単純な内容だ。キャラが濃すぎて笑え、タランティーノ好きならたまらない。空調の利いた部屋でモヒートでも飲みながら楽しい時間を過ごせるはずだ。
by writer Mitsuhiro Ebihara